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年頭のごあいさつ ~真の地域医療構想とは~   -令和2年1月

 2019年9月27日に厚生労働省は全国424の公立、公的病院の実名を公表し、再編統合について再検討する必要があると発表しました。これまで厚労省は急性期病床数が過剰である、回復期・慢性期病床が不足していると述べ改善を求めていましたが、全国の地域医療構想会議が機能しないことに業を煮やした行動と思われます。これに対して、平井鳥取県知事(全国自治体病院開設者協議会会長)を先頭に全国から批判が噴出しました。日野病院はこの中に含まれていませんが、私の感想は「厚労省に言われるまでもなく、日野病院は日野地域にふさわしい医療変革を始めるべく行動しています。」です。前回のせせらぎにもその一部を書きましたし、日野郡内の医療機関との話し合いもすでに行っています。
 今回の厚労省発表の内容について少し私なりの解釈、問題提起をしてみたいと思います。厚労省は急性期病床を持つ病院の中で、がん、心血管、脳卒中、救急医療、小児医療、周産期医療、災害医療、へき地医療、研修派遣の9項目すべてにおいて診療実績が下位3分の1以下であること、またはがん、心疾患、脳卒中、救急医療、小児医療、周産期医療の6項目すべてで類似かつ近接する病院のあること、このどちらかを満たした病院を選定しました。つまりこのような病院はベッドを減らすなり、合併するなりしなさいという警鐘です。しかし、このような評価は本当に正しいでしょうか。まず、厚労省のデータ収集の問題点として、急性期病床の算定が病床毎ではなく病棟単位であるため、実態よりも多く算定されているものと思われます。例えば中小病院で内科系と外科系の2病棟に分かれていれば、一部に回復期病床が含まれていても病棟としては急性期病床と報告せざるを得ません。中小病院ではこのようなことは多く見られるため、厚労省が急性期病床が多すぎる、回復期病床が少ないと言っても現状を把握していないだけかもしれません。病床算定は病床毎にすべきですし、必要病床数は県単位ではなく、一次診療圏、二次診療圏を考慮してもっと細かな範囲で行うべきです。また、診療実績のデータは2017年6月のデータを使用しており、二年も前のたった1か月のデータで病院を選定するのはあまりに安易です。せめて一年間のデータを使用すべきです。疫学の専門家集団としては稚拙で手間を省いたとしか思えません。
 次に、厚労省は選定基準として先に述べた9項目や6項目を決めています。しかし、これまで厚労省は公立・公的医療機関に対して民間医療機関との役割分担を踏まえ、公立・公的医療機関でなければ担えない分野へ重点化することを求めてきました。つまり、収益性の高い分野、患者数の多い分野は民間に、それ以外を公立病院が補えと言っているわけですから、今回の基準に照らせば下位3分の1以下になる可能性は極めて高いことになります。地域の実情に合わせて、特徴のある医療を展開してきた先進的な病院が不利になるのは当たり前です。みんながしていないことをしなさいと言われて得意の体育をしていたら、テストは数学を国語と理科だけで落第にされたようなものです。このようなやり方では住民の賛同は得られませんし、高齢化の進んだ地方の医療は崩壊します。地域医療を評価するには、地域の実情を知り、過剰でも過少でもない個別化診療ができているかをみる必要があり、国よりも自治体と医療機関が自ら評価すべきです。都市部と地方、旧市街と新興都市、山間部や離島、様々な環境、立地、住民によって必要な医療は変化します。つまり、そこに住む人しかその地区の最適医療を考えることはできないのです。日野病院周辺の皆さんにはぜひ自分の町に必要な医療は何かを私たちといっしょに考えましょう。