地年頭のご挨拶 ~昨年、一番驚いたこと~ -平成27年1月
明けましておめでとうございます。本年も相変わりませず日野病院組合をよろしくお願いいたします。今回は、昨年を振り返り私が一番驚いたことについてお話しさせてもらいます。年頭にはふさわしくない話題かもしれませんがご容赦ください。
それは、10月のことでした。外来が終わって一休みしていると、看護師さんから「先生、今日外来の待合室で診察を待っていた患者さんが怒ったのをご存知ですか?」と尋ねられました。知らなかったと答えると、看護師さんが続けました。「その患者さん、『待ち時間が長すぎる。医者をもう一人雇え』と怒鳴ったんですよ」
地域医療の崩壊が叫ばれて久しくなります。今や、地方の病院では、診療科の閉鎖や病院同士の統廃合は決してめずらしい出来事ではなくなりました。その最大の理由は、地方から医師がどんどんいなくなっていることにあります。何故このようなことが起こっているのでしょう。それは、以前より進められてきた医師数抑制政策と2004年にスタートした新医師臨床研修制度のためです。
特に新医師臨床研修制度の影響は大でした。この制度により今までは出身大学で研修していた研修医が、多彩な症例を経験でき、待遇など諸条件に恵まれた都会の病院で研修を受けるようになりました。そのため、深刻な医師不足に陥った地方の大学病院では、高水準の医療を維持するため、関連病院に派遣していた医師を引き上げざるを得なくなったのです。もちろん鳥取大学も例外ではありませんでした。
日野病院では2004年以降鳥取大学からの消化器内科医、脳神経内科医の派遣が停止されました。また、3名いた外科医師も現在1名に減っています。もう1人でも医師が辞めれば、その存立が危うくなるというのが今の日野病院の実態です。以上のような背景をご理解いただいて、冒頭の患者さんの言葉に戻りましょう。私の驚きの大きさがお分かりいただけると思います。
さて、最近になり地方に医師を呼び戻すための様々な試みが行われています。その1つがいくつかの大学で行われている医学教育カリキュラムへの地域医療教育の導入です。地域医療教育は、地域医療の現場での教育(Community-based Learning)を通しての地域を指向する医師の育成することを目標にしています。鳥取大学ではその中心的な役割を担う地域医療学講座が2010年に開 講され、昨年にはサテライト教育機関として鳥取大学地域医療総合教育研修センターが日野病院に設置されました。今後、皆様が日野病院で学生に接する機会も少しずつ増えて行くものと思われます。
もう1つの注目される試みは、地域医療を守り、育てようとする住民の活動です。そのモデルケースとされているのが、兵庫県立柏原病院の医師不足に端を発し設立された「県立柏原病院の小児科を守る会」の活動です。この会による広報活動や署名活動により病院へのコンビニ受診は減少し、医師の増員が実現しました。このような活動は、今や全国的な広がりを見せています。
福井県高浜町の「たかはま地域医療サポーターの会」が住民向けに公表している「地域医療を守り育てる五か条」をご紹介します。地域医療を守るためには、地域の主役である住民が、医療者や行政にたよるのではなく、自ら出来ることを模索し実行しなければならないということをお分かりいただけると思います。
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一かんしん(関心)を持とう まずは知るところからすべては始まります。
「自分はまちの医療にかかっていないから関係ない」というあなた、あなたが20年後、車の運転できなくなったら?あるいはあなたのご家族は?関係ない人などいない、それが地域医療です。
二かかりつけを持とう
どんなときにも大きな病院の専門医にかかるのではなく、まず何でも相談できる「かかりつけ」を探しましょう。かかりつけ医は大きな病院と連携しています。
三からだづくりに取り組もう
あなたが病気にならずに病院・診療所にお世話にならなかったら、医師の業務は減り、余裕が生まれます。日ごろの食事や運動習慣を見直す、健康診断、がん検診を受けるなど、住民ができる健康増進は多いです。
四がくせい(学生)教育に協力しよう
志高く地域医療の現場に研修に来られる医学生さん、研修医の先生の気持ちを折らないよう、気持ちよく診察を受け、励ましの言葉をかけましょう。彼らが指導医とともにレベルの高い医療を提供していることも理解してください。
五かんしゃ(感謝)の気持ちを伝えよう
膨大な業務や患者の心ない言葉に、医療者の心と体はぼろぼろです。崇め奉るのではなく、人と人との関係として当然わき上がる感謝の気持ちを忘れずに伝えてください。感謝の言葉が、医療者を元気づけます。